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第408号 1991(H3).10発行

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微生物資材による土壌病害抑止の可能性

神奈川県園芸試験場
環境科長 藤原 俊六郎

 LISA(低投入持続型農業)など環境に優しい農業が求められている今日,農薬の使用を抑制する意味から微生物資材に深い関心がよせられている。微生物資材は多種類のものがあるが,有用な微生物を有機物に混合または鉱物質に吸着したものが多く,堆きゅう肥などの有機物のもつ効果のうち,微生物の機能をさらに強化したものといえる。

 ここでは,現在,一般に流通している微生物の性質と,トマト根腐萎ちょう病に適用した場合の効果例を紹介し,微生物資材による病害抑止効果について考えてみる。

1.微生物資材の種類

 現在流通している微生物資材は数多く,全国土壌改良資材協議会の資料1)によれば67資材が紹介されているが,一般に流通している資材はさらに多く,100以上の種類がある。微生物資材の内容は,大部分が有用微生物を培養して添加したものであるが,なかには有用微生物の増殖環境をつくる資材だけが入っているものもある。

 また,商品形態も液状のものから,堆きゅう肥等の有機物やバーミキュライトなどの鉱物に吸着させたものまで多岐にわたる。施用量もまちまちであり,10aあたり20kg程度のものから300kgをこすものまである。しかし,添加されている微生物についての記載は抽象的なものが多く,大部分の資材で微生物の種類は明らかにされていない。

 これらの資材の効果は大別すれば,
①地力を増進する効果をもつもの,
②土壌病害を抑止する効果をもつもの,
③堆肥化や土中の稲ワラ分解を促進するもの,
に分類できる。

 全国土壌改良資材協議会資料1)を参考にして,効果と商品形態別にまとめたものを図1に示した。効果はメーカーの表示してあるものであり,資材によっては複数の効果を表示しているため,主として効果のあるもので分類した。

 土壌改良効果や作物増進効果などを総合的に含めた地力維持に効果があるとするものが最も多く,全体の半数近い。このなかには鉱物質資材に有用微生物を吸着したものが最も多く,有機質資材に混合したものと液状のものは同数であった。

 拮抗微生物による土壌病害抑止効果を中心とした連作障害回避資材が次に多い。この資材は有機質資材に添加したものが最も多く,液状のものはほとんどない特徴がある。

 堆肥化や水田に稲ワラをすき込む場合などの有機物分解効果をねらう腐熟促進資材は点数が少ないが,有機質資材に添加したものが多い。

 有機質資材,鉱物質資材を主体にした微生物資材の走査型電子顕微鏡写真を示した。写真1は有機物と少量の土壌様物質に微生物を添加したもので胞子や菌糸がみられる。この形態をした資材が最も一般的である。

 写真2はバーク堆肥に微生物資材を添加したものであり,堆肥中で微生物が増殖し,数多くの胞子や菌糸がみられ,菌の種類と量がともに豊富なことがわかる。

 写真3はバーミキュライトに培養した微生物を吸着させたものであり,この形態の微生物資材も多い。

2.トマト根腐萎ちょう病抑止効果

 これら微生物資材に関しての研究は,自治体研究機関で多く行なわれている。体系だった研究としては,全農の実施した連絡試験2)があるが,病害の種類や地域による差がみられ明確な結論はでていない。これは,病害試験は発病条件に違いがあり再現性に問題があることや,微生物資材の効果が一律にてあらわれないことなどの条件によると考えられる。

 より多くの事例をみる意味で,過去5年間にわたる病理及び土壌肥料の試験研究成績書3)から,トマト根腐萎ちょう病(病原菌Fusarium oxysporum f. sp. lycopersici)の抑止効果を試験した事例をまとめたものを図2に示した。

 この図は,対照区の病害発病度を3とし,対照区と比べ効果があったものを4,大きな効果があったものを5,逆に対照区より激しく発病したものを2として表示した。また微生物資材は,堆きゅう肥等の有機質資材と混合したもの,バーミキュライト等の鉱物に吸着させたもの,キチン混合堆肥化物及びキチン類似物質に分類して集計した。

 資材により効果にばらつきがみられるが,発病を軽減させる効果がみられるものがある。なかでもキチンを含むものは効果が高い傾向にあり,それを含めた3つの資材は,実験例すべてで効果ありと判定されており,病害抑止効果が期待される。しかし,これら成績書には,結果が良いものだけが記載される危険性があるため,より多くの使用例を含めて効果を判定することが必要である

 次に,同様にトマト根腐萎ちょう病について,神奈川県園試で7種の微生物資材を試験した例を紹介する。図3は,供試した7資材を希釈平板法による微生物分析した結果の指数値をとりレーダチャートにしたものである。

 資材の特徴を明確にするために,糸状菌をF,放線菌をA,細菌をBとし,微生物数が多いものを大文字,少ないものを小文字にして分類した。その結果,資材Bは細菌型,資材DとGは均衡型,他は放線菌型に分類でき,多くの微生物資材が放線菌重視で製造されていることがわかる。

 さらに,その資材を用いて病原菌Fusarium oxysporumと対峙培養を実施した結果,資材CとGに比較的強い静菌効果がみられた(表1)。

 その資材を用いてトマトをポット栽培した。資材は育苗用ポットと定植用ポット両方に入れ,11月定植の抑制トマト(品種:ホマレ114)を栽培した。翌年3月に発病調査を実施した結果,資材CとGにわずかに病害抑制効果がみられた(表1)。この結果は,対峙培養結果とほぼ一致しており,資材に含まれる微生物の拮抗作用による結果であることが類推された。

 微生物資材はこれらの事例のように,多少の病害抑止効果が認められるものの,その効果の安定性には欠けており,大きな効果は期待できないといえる。

3.微生物資材の使い方

 多種類の微生物が働き堆肥ができるように,自然界では微生物は環境に適応した状態に常に変化している。このため,有機物中や土壌中に単一種類の微生物を高いレベルで生存させることは困難である。したがって,微生物資材による土壌病害抑止は,拮抗微生物による静菌作用,溶菌作用などの直接効果よりも,間接効果によるものが大きいと考えられる。

 間接効果には,①作物の健全生育を促すことにより病害に対する抵抗性をもたせるもの,②多種多量の微生物が存在し,微生物が多様化することによる微生物どうしの競合作用が考えられる。

 微生物資材による病害抑止効果は,農薬のように完全なものではなく,病気を軽減することはできても絶滅することは困難である。長野県野菜花き試験場におけるハクサイ黄化病の試験4)は貴重な成功例のひとつであり,連用3年目から顕著な効果がみられている。

 これらの事例を参考にして考えれば,微生物資材を土壌病害抑止のために利用するうえでの注意点は次のものがあげられる。

①有機物や微生物資材は農薬ではないため,土壌病原菌を殺す能力は極めて低い。発病の著しい圃場では,土壌消毒を行なったあとに微生物資材を堆肥とともに施用する。

②ただ1回の施用では効果が小さくても,連用することにより効果が期待できることがある。

③果菜類のように地上にできる果実を利用したり,栄養生長期に収穫する葉菜類では利用の可能性は大きいが,地下部を利用する根菜類では,病害のかなりの部分が抑制されても根部表面にわずかに残る障害で商品価値が無くなるなどの問題があり,利用に問題が残る。

④微生物資材は万能ではないため,病害抑止に適した資材の選定が必要である。しかし,現在流通している微生物資材の種類と病害の種類が非常に多いため,適切な組み合わせを検索するための簡易効果判定法の開発が必要である。

works cited

1)全国土壌改良資材協議会編:全国土壌改良資材協議会会員要覧(1990)

2)地域農試編:北海道,東北,北陸,関東東海,近畿中国,四国,九州各農業試験研究成績・計画概要集―病害―,―土壌肥料―,1985~1989

3)全農肥料農薬部肥料技術普及課:露地野菜の土壌病害に対する微生物関連資材の施用効果 委託試験成績(1989)

4)高橋ら:長野県野菜花き試験場環境部成績書,1986~1989

 

 

トルコギキョウのセル成型育苗

大分県温泉熱利用花き園芸試験場
研究部研究員 藤原 博文

Introduction.

 近年,トルコギキョウは切花類の中で生産が非常に増加している品目の1つであり,今後キク,バラ,カーネーションの次に位置してくるであろうという予測もある。本県においても,この4年間で栽培面積が3.5倍,生産額が4倍と増加した。

 栽培上の問題点としては,種子の大きさが微細で,苗の生育も緩慢でバラツキが多く育苗が困難であること,夏期に播種するとロゼット化するため周年出荷が困難なこと等があげられてきた。しかし,最近では全国の研究機関等で研究が行われ,その成果が出揃ってきており,これらの問題点は解決されようとしている。

 また,近年国内の野菜,花きの育苗においてセル成型トレイの利用が非I常に盛んになってきており,トルコギキョウの育苗においても利用が進んでいる。

 当場においてもこれらの研究に取組んでいるが,ここでは育苗時にセル成型トレイを使用した場合の利点と問題点,ならびに,本県におけるセル成型トレイを使用した実際の育苗方法について述べたい。

1.セル成型育苗の利点と問題点

 トルコギキョウの育苗は,従来,育苗箱あるいはペーパーポットの利用,地床育苗,これらをポットに移植後定値,直播等の方法があり,それぞれに第1表のような利点と問題点がある。

 セル成型トレイを使用した場合の大きな利点として,初心者でも定植時にほとんど根を痛めないこと,定植労力が大幅に削減されることがあげられる。他には1株当たりの面積が一定であるため均一な苗が作りやすく,運搬性が優れている等があり,将来的には移植機の利用も考えられる。

 問題点としては,セル成型トレイを使用した場合,育苗面積が育苗箱に比べ1.5倍程度必要となる。特に,育苗時に低温処理をする場合は,コストが増加する。また,用土量が少ないため定植適期の期間が他の育苗法に比べて短い。他には,1つ1つのセルが独立しているため,乾燥しやすく,灌水むらが発生しやすいので,水分管理により注意が必要なこと等である。

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 資材コストとしては,セル成型トレイ代金は本圃10a当り約3万円であり,使用後に水洗し殺菌剤等で消毒すれば複数回使用もできるため,自家育苗する場合,コスト面での問題は少ないと思われる。

 また,トルコギキョウは直根性のため,直播によって最も好ましい生育をするが,実際の栽培においては非常に困難であり,育苗中の低温処理もできない。一方,セル成型トレイを使用した場合,育苗終了時には根鉢が形成されており,この根が巻いている状態はあまり好ましくないと思われる。そこで,セル成型トレイを使用して根が巻かない方法を現在検討中である。

2.セル成型育苗の方法

1)セル成型トレイの種類

 セル成型トレイには様々な種類があるが,県内では深さが比較的深い「苗作くん」が多く使用されている。これには171号(セルの大きさ:上面2.5cm角,深さ5cm,容量約15ml)と253号(セルの大きさ:上面2cm角,深さ4cm,容量約10ml)の2種類があり,171号のほうが深いが,育苗面積がより多く必要となるため,253号の使用がほとんどである。この場合,本圃10a当たり140~160トレイ(25~29㎡)が必要である。

2)育苗用土

 長期間の育苗に耐えられる,排水性と通気性の優れたもので,pH6.5前後,EC0.2~0.4程度に調整された用土で,土壌消毒されたものが良い。

 また,最近ではセル成型育苗用の用土がプラグミックスと称して市販されており,この用土と慣行用土(淡色黒ボク土67%,腐葉土33%)および市販育苗用土である与作V1号を使用して当場で育苗用土試験を行った。その試験結果を第2~4表に示した。

 基土がプラグミックスの場合,与作V1号を混入することで苗の生育と揃いが良く,葉色も優れた。与作V1号の混入割合は50%が最も優れ,与作V1号の混入割合が少なくなるにつれ生育が劣る傾向がみられ,プラグミックスの単用では生育が劣った。

 基土が慣行用土の場合,単用でも苗の生育は良かったが,与作V1号を混入することでより優れた。与作V1号の混入割合による生育の差は明らかではなかった。

 また,与作V1号の単用では生育が劣り,葉色が黄白となる個体が認められた。

 この試験結果をもとに,第5表に用土例を示した。このうち①は,初心者でも揃った菌が作りやすく,コストも本圃10a当たり約2万5千円と低いため,県内で普及しつつある。

3)播種

 発芽には,5,000Lux以上の光が必要な好光性種子であるため,.覆土は行わない。種子は微細で1ml当たり約1.3万粒であり,本圃10a当たり10~15mlが必要である。方法として,コーティング種子による播種と,液体播種がある。

  コーティング種子は裸種子を炭酸カルシウム等で覆ったもので,点播が可能であり,非常に簡易な播種器(ポットル等)も利用できる。10mlで約3,000粒で,1セル当たり,1粒播きするか,2粒播きして間引く。コストは,本圃10a当たり約5~15万円で,裸種子を購入した場合とほぼ同程度である。

 流体播種の方法としては,水1ℓにイゲタゲル(高分子吸収体)5gを入れよくかき混ぜて,約30分放置する。油さし等に,溶いたゲル100mlに裸種子1mlの割合で入れ,良く混合し1滴ずつ落としてみる。1滴中の種子数を確認し,1滴中3粒程度になるよう,ゲルと種子の割合を必ず調整してから,実際の播種作業に移る。

 また,油さしの先端を加工して,力を入れなくてもゲルが出てくるようにすると,1滴中の種子数が比較的平均化し,作業も軽減される。容器内で種子が沈むため,播種中幾度か良く振り混ぜる。播種作業は本圃10a分で2日程度かかる。

4)灌水

 種子が微細で,播種後に通常の灌水を行うと種子が流失するため,底面吸水またはミスト灌水を行う。第1図に示した底面吸水では,水平をとり,吸水量のばらつきを防ぎ,根が出始めたら必ず水を引く。両者の共通な管理として,播種前に用土に十分灌水しておく。過湿,乾燥を避ける。

 播種後25~30日位で本葉1対が出始める頃に底面吸水およびミスト灌水を終了する。終了時期は早いほうが良い。終了後は目の細かいハス口等で根を流さないよう静かに灌水する。水はできるだけ清潔なものを使用する。

5)温度

 温度に敏感で,適温は播種から発芽までが20~25℃,発芽から定植までが15~25℃である。特に発芽から定植までの夜温は15℃が望ましい。冬期はこれ以下では生育がばらつき,育苗期間が長くなる。夏期はできるだけ夜温20℃以上を避ける。発芽が揃うまで15~20日程度で,発芽から定植までは40~60日程度である。

6)間引き

 本葉が重ならないよう,時期をみて2回程度行い,1セル当たり1本に仕上げる。残す個体(良苗)の基準としては,葉幅が広く,葉が堅く厚く,徒長していない,葉色が濃い,根が浮いていないものとする。個体毎に葉に光が十分当たるような間隔で間引く。ピンセット等を使用するが残す個体の葉を痛めたり,根を浮かせたりしないよう注意し,間引く個体が根から除けないときは,地上部だけを除去する。

7)エアープルーニング

 本葉1対が出始めたら,第2図に示すように,セル成型トレイは床面に直接置かず,空気が根と育苗用土に十分通るように,床面とセル成型トレイの間をあける。金網ベンチの使用が良い。乾燥には十分注意する。

8)追肥

 本葉1対頃から葉色を見ながら,液肥を1,2回施用する。濃度はくみあい尿素複合液肥特2号の場合,1,000倍(N100ppm)程度とする。用土に与作V1号を混入した場合は行う必要はほとんどないが,葉色が淡くなれば行う。

9)シェード

 中間地,高冷地で春以降に定植する場合は,定植後の温度が高く,日長も長い。このため株が十分に生育する前に花芽分化が始まり,切花のボリュームが不足しやすい。これを軽減するためにシェードを行う。

 時期は定植前の30日間に行う場合と,定植後から30日間行う場合があり,後者のほうが効果はやや高いが,作業性を考えると前者のほうが行いやすい。方法は, シルバーポリ等で夜間の16:00~8:00に覆う8時間日長とする。また,夜温が高い時期は注意が必要であり,暗黒時はシルバーポリを開放する。

10)低温処理

 発芽から本葉2対頃までの育苗期間中,夜温が20℃を越えると高温ロゼットとなる。この場合,定植後10℃で35日間程度の低温に遭遇しないと抽台せず,早期播種を行ってもかえって開花が遅れてしまう。これを避けるため,夏期に播種し冬期に出荷する場合,育苗期間中に夜冷育苗,冷房育苗,高冷地育苗等の低温処理を行う。

 夜冷育苗では,夜間の16:00~8:00に15℃の冷房を行い,昼間は自然温度とする。冷房育苗では,昼間25℃,夜間15℃の冷房を行う。

 また,本県には標高800mに育苗センターがあり,ここでの育苗を試みているが,その試験結果を第6表に示した。

 なお,低温処理の効果には品種による差があるため,注意が必要である。

11)定植

 本葉2~3対が定植の適期であり,この時期を逃さないようにする。セル成型トレイから苗を抜き取って,穴に差し込むように定植する。バーミキュライト,ピートモス等が用土に含まれている場合は乾燥しやすいため定植直後にすぐ灌水を行う必要がある。また,用土が湿っているほうが苗の抜き取りは行いやすい。

3.栽培上の留意点

 排水の良い圃場を選び,完熟堆肥等を十分に施用し,耕土深を深くとり,空気に富む土づくりを行う。土壌病害が発生しやすいため,連作するときは必ず土壌消毒を行う。

 発蕾期までは,過湿,乾燥を避け,病害の発生を抑えるために換気を行う。発蕾以降は土壌水分を切り,換気を徹底し,茎が堅く,日持ちの良い切花を得るようにする。

Conclusion

 以上のように,トルコギキョウのセル成型育苗の現状を述べてきたが,育苗労力の省力化,成苗率や施設の回転率の向上のためには,温度,水,光等の環境条件のより厳密な把握や機械化が必要である。また,今後もトルコギキョウの需要を喚起し続けるためには,花型と花色の種類をさらに増し,高品質な切花の周年出荷体制を確立することが必要である。